コロナと飲酒の経済学

新型コロナの蔓延に伴う緊急事態宣言の発令・延長により、明らかになったことがある。

 

3回目の緊急事態宣言が発令された地域では、酒類を提供する飲食店では酒類の提供が停止されることになった。これまでは19時までは提供可能だったが、全面的に酒類を提供できなくなると、休業要請に応じて店を閉める飲食店も多く出てくることになった。
週末に訪れたイタリアン・ファミリーレストランも、酒類の提供をやめて営業を継続していたが、夕方18時から19時くらいでもお客の入りは3割といったところだった。

 

店側にしてみても、「酒類の利益率が高いので、酒類を提供できなくなると店が回らない」というのが休業要請に応じる大きな理由だそうだ。

 

待てよ。飲み助の一人として、いや、日本中の飲み助たちがここで疑問に思わなければならないことがあるはずだ。
「我々は酒類を注文するたびに、店にぼったくられていたのではないか?」

 

酒類を提供する飲食店において、酒類が提供できないと利益を確保できないというのは、どういうことなのか。
世の中には酒類を提供しない飲食店も多く存在しており、また酒類は「とりあえずはおいてあるが、主力は料理」という店も少なくない。

 

酒類を提供する店は、経営側にとって「おいしい商売」なのだろうか。
それとも、利益を稼ぐ努力ができない店主が酒類を提供しているだけのだろうか。

 

ビールを例にとってみよう。
コンビニで500ml缶を購入すれば、270円ほどだ。
居酒屋で中ジョッキを注文すると、500円前後だろう。もっと安いところもあるが、第二・第三のビールやノンブランドビールが提供されているケースもある。

 

飲食店における「原価率3割」の原則に比べるとビールの原価率は高いのかもしれないが、それでも中ジョッキ1杯を提供すると5割近い儲けになる。
料理の原価率3割は、様々な調理の手間をかけるから得られる利益であり、
酒類の5割近い利益は、やはり「おいしい商売」なのである。

 

飲み助諸君、我々はもっと酒類の値下げを飲食店に要求しても良いのではないか?
もっと飲み会の費用は安くなるのではないか。
携帯電話料金の値下げも良いが、飲み会の料金の値下げの方が、我々庶民にとっても大事なのではないか。

 

いや待て。別の視点も必要だ。
上述したイタリアン・ファミレスで閑古鳥が鳴いているのは、我々飲み助が「酒が飲めない店にはいかない」と拒絶したからではないか。
我々は飲食店で何にお金を払っていたのか?

 

確かに世の中には家飲みを楽しむ飲み助も大勢いる。
しかし私のように、「外では飲むが、家では飲まない」という輩も少なくないはずだ。
では私は、これまで外で何にお金を払ってきたのか。

 

そうだったのか。
我々は酒にお金を払ってきたのではない。
「友人たちと」「楽しく」お酒を飲める場所や雰囲気にお金を払ってきたのだ。
気の置けない仲間たちとの、仕事終わりの一杯は格別だ。2軒、3軒とはしご酒をするのも、酒が飲みたいからではなく、酒を飲むことを通じて仲間たちとの「絆」を深めることができるから、行くのだ。
そのことに、私たちはお金を払ってきた。

 

かくして、新型コロナは、私たちの「友人たちと」「楽しく」酒を飲む「機会」の価格をつまびらかにした。
飲み放題の店の飲み放題価格が2000円だとして、その原価は5-6割。つまり、2時間の宴会のうち、800-1000円は「友達と楽しくなる費用」だったわけである。

 

もちろん、酒を飲まない会食でも、友達とは仲良くなれる。「同じ釜の飯を食う」ことは、付き合いが「知り合い」レベルから「友人」に変わるための、重要なステップである。

 

しかし、そこに800円から1000円を追加することは、「楽しい場が共有できる間柄」「もしかすると、粗相や武勇伝など、新たな共有体験を持つことができる関係」へと発展するために「グリーン料金(追加料金)」なのである。
このグリーン料金は、それを出す価値があるとみなす人と、そうは思わない人との間で、弾力性が大きく異なるということも、明白だ。

 

そう考えてみると、飲食店で酒類を飲むことの費用は、決して高くない。むしろ、こんな価格で楽しい経験をすることができれば、「お得」ですらある。

 

ただし、緊急事態宣言が解除されたからといって、政府が求める「一人メシ」で酒類を飲むのは、お店の思うツボである。それなら、家で飲んだ方が圧倒的に安上がりだ。
ただ飲食店での一人飲みは、やけになった時に周囲の誰かから(店員さんから)「慰めてもらえるかもしれない」という「期待料」だとすると、キャバクラに払う費用と比べればはるかにお得だ。一人飲みも、悪くはなかった。

 

早くコロナの問題が解消されて、またこれまでのように仲間たちと杯を酌み交わしたい。その時に払う費用は、格安なんだと、気付くことができた。このことだけは、コロナのおかげかもしれない。
だからこそ、今は我慢して、コロナをやっつけよう。我慢ができないと、我慢しなければいけない時間が長くなる。

 

また、楽しい時間が来ることを心待ちにしている。